法学部/灘
GK #1 岸本 大聖
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。
去年を振り返ると、全くもって覚悟が足りていない1年だったなと思います。貴重な大学生活をホッケーばかりに捧げるのが不安でした。ホッケーとは関係ない悩みや雑念でいっぱいでした。その結果、秋のリーグ戦では大一番でゴールを守り切れずチームはDivisionⅡ 5位に沈みました。七大戦では最少失点で優勝しながらもベスト6から外されるという人生最大の屈辱を味わいました。こんな経験はもう二度としたくありません。余計なことはいっさい考えない。一度この部に入ったが最後、引退までやり切るしかない。覚悟というよりは諦観に近いものがあるかもしれませんが、いずれにせよここで身を捨てて挑まねば二度と浮かび上がることはできない気がしています。
一つ目の決意、あくまで自分の技術を追求し続けること。もとよりゼロから技術を磨いてどこまでいけるか知りたくて始めたスポーツでした。その一心で、1年生のときの活動停止期間も、2年生のときの自粛期間も、できることは何一つとして怠らず乗り越えてきたはずでした。それなのに3年生になってからは周りから評価されるようになって、秩父宮杯でもチームとして結果を残して、完全に慢心してしまっていたように思います。こんな中途半端なところで終わるつもりはありません。東大の黄金時代を支えた主力として周りに有無を言わせぬ活躍ができるよう、練習に打ち込まなければなりません。それに僕はチームの雰囲気を盛り上げたり引き締めたりしたりして貢献することができる人間ではないので、せめて1つでも多くのパックを止めることで貢献しなければいけないという考えがあります。あるいは今までたくさん周りに迷惑をかけてきたことへの罪滅ぼしかもしれないけれど。そのためにも技術の追求は引退の瞬間まで絶対に忘れたくありません。
それから二つ目の決意、全員の努力を肯定する姿勢を忘れないこと。去年の秩父宮杯は本当に辛かった期間と重なっていましたが、試合に出ている時間は夢のようでした。絶対にミスできない緊張感を氷上のチームメイトと共有している感覚、言葉がなくても互いのプレーへの信頼が伝わる感覚、こういう感覚のためにホッケーをやっているのだという実感がありました。にもかかわらず、秋以降はその感覚をすっかり忘れていました。それはチームとして勝利への執念が消えてしまっていたからだと思います。もちろんホッケーを純粋に楽しむことも大切だと思っているけれど、勝利への執念、あるいは渇望にもみくちゃにされながらプレーするなかで得られる感覚のほうをより大切にしたいと感じました。
その一方で、勝利を追求することと全員の出場機会を保障することは両立しえないという現実が重くのしかかっています。今年の秩父宮杯・秋のリーグ戦・七大戦では「勝つためのホッケーをする」という方針になりましたが、経験歴の長いプレイヤーが爆発的に増え、大学始めのプレイヤーは4年生でも出場機会が脅かされている今のチーム状況を考えると複雑な感情は拭いきれません。先に書いたように個人的な願望は勝利を追求することですが、単にポジションのおかげで出場機会が保証されている僕が言うのはずるい気もします。実際、大学始めの同期とこういう話をしていても「お前はあっち側だからなあ」と言われてしまいます。おれも大学始めのプレイヤーとして同じ志を持っていたはずなんだけどなあ。それでもキーパーである僕が勝利を追求しなくなってしまったらチームとして終わりだと思うので、どうにか複雑な感情にも折り合いをつけて1年間やっていかなければならないと思っています。ずるい立場であると同時に、窮屈な立場でもあるのかもしれません。
その裏で、全員に出場機会を保障することよりも大切なことがあると考えています。それは、この部にあるどうしようもない構造に対するチームメイトの抗いを否定しないようにすることです。去年のチームにあったゆがみについて同期は「構造の欠陥のせいだ」と言いました。これは本当に的を射ていると思います。誰のせいでもない。経験歴の長いプレイヤーと大学始めのプレイヤーの間には絶望的に思えるほどの実力差があり、4年間積み上げてきたものが一瞬にして破壊されうる異常な構造。2部リーグにおいて大学からホッケーを始めることは、このどうしようもない構造に対する挑戦を意味します。一部のプレイヤーは経験歴の長いプレイヤーと肩を並べる活躍をすることもありますが、そんな革命の裏ではこの構造がばかばかしくて仕方なくなるプレイヤーも多くいると思います。実際にそのせいでホッケーを辞めようとした同期がいました。今年はチームメイト、特に後輩にそういう思いを絶対にしてほしくありません。そのために各々ができることこそが抗いを肯定する姿勢を示すことだと考えています。勝利を追求しているとつい下級生のためのスケジュールを組むのがおろそかになったり、チームメイトの技術不足に悪態をつきたくなったりしてしまいがちになりますが、それは抗いを否定することに他なりません。これは自戒であり、かつ上に立つ者の意識の問題です。勝利を追求することと全員の出場機会を保障することは両立しえないかもしれないけれど、勝利を追求することと全員の努力を肯定することは両立しえると考えています。「経験者」でも「未経験者」でもないプレイヤーとして、この意識を徹底したいと思います。そして、一緒に頑張ってきた大学始めのプレイヤーが革命を起こしてくれることを心の底から待ち望んでいます。
最後に三つ目の決意、好きなことを共有できる人たちと好きなことに本気で打ち込める喜びを噛みしめること。部活をやる理由は人それぞれだと思います。それでもこのチームを繋ぎとめているのは、みなホッケーが大好きであるということ、たったそれだけなんです。そしてそれはこの上なく尊いことだと思っています。そういう意味で残り1年間を大切にしたいという気持ちが強いし、チームメイトにも大切にしてほしいと願っています。
末筆ながら、日頃から応援してくださっている関係者の方々に心から感謝申し上げます。特にいつも僕のやりたいことに理解を示してくれる両親には頭が上がりません。読んでいるかどうかはわからないけど、いつもありがとう。皆様、今年度も東大アイスホッケー部をどうぞよろしくお願いいたします。